『源氏物語』を原文で読む

広島市中区・安佐北区で源氏物語講座を行っている講師のブログです

「父」は重要

10代の頃は『源氏物語』の華やかな恋愛模様に惹かれたものですが、子供を産んでからは「親子関係」に注目するようになりました。

 

源氏物語』を読んで強く感じるのは、父を亡くした娘は不憫だな~ってこと。私自身も4歳で父と死別したので、よけいに着目しちゃうのかも。

 

宇治の三姉妹なんかが分かりやすいですよね。

 

大君中の君は父(八の宮)が生きてる頃から宇治で寂しい生活を送っていたけけど、それでも親王である父がいれば訪ねてきてくれる人もいた。

 

でも父は急逝・・・。

 

薫の援助がなければ食べるものさえ手に入らなかったでしょうね。

 

大君は薫の求婚を断るけど、私はつい、「薫と一緒にならずにどうやって生きていくつもりなの。山里でおっとりと育った娘が宮仕えなんて無理だろうし、出家しても誰がその生活を支えてくれるのよ。「薫には中の君と結婚してもらって、自分にもおまけで援助してもらおう」なんて図々しいよ。薫の提案通り、大君は薫と、中の君は匂の宮と一緒にならなきゃ生きていけないでしょ」なんてヤキモキしてしまいます。私自身が家計を預かる主婦になって、現実的になってしまったんですね(笑)。

 

「男の人に生活を支えてもらわないと生きていけない」・・・それこそが不幸なんですけどね。大君と中の君は親王の娘なのに、八の宮が世間から忘れられた親王だったから、薫と匂の宮の正妻にはなれないわけだし(薫の正妻は二の宮、匂の宮の正妻は六の君ですよね)。

 

中の君は結局匂の宮と結ばれますが、好色な匂の宮がいろいろな女性に手を出しても、宇治へ逃げかえることはできない。だって匂の宮の元にいなければ、食べることすらできないんだから。

 

大君と中の君の異母妹である浮舟はもっと悲惨です。

 

親王の娘なのに、八の宮が認知してくれなかったせいで、継父の元で厄介者扱いされ、薫や匂の宮からも軽んじられて・・・(薫も匂の宮も、大君・中の君に対する態度と、浮舟に対する態度は違いますよね。当時は身分が重んじられた時代だから、仕方がないことなんですけど)。八の宮の娘として育っていれば、左近少将との縁談が持ち上がることも、断られるという憂き目にあうこともなかったでしょう。

 

平安貴族の女性にとって「父の後ろ盾」は重要だったんだなぁと思います。

 

源氏物語』のヒロイン・紫の上だって、父(兵部卿の宮)が大事にしてくれていれば、光源氏の正妻になれたでしょう。血筋は良いのだから。それならば女三の宮が光源氏に降嫁することはなく、紫の上が病気になることはなかったでしょうね。

 

落葉の宮は父(朱雀院)は存命ですが、出家していたので落葉の宮の力にはなれず、夫・柏木を亡くした後、出家することを許してもらえません。そこにつけこんでくる、柏木の親友・夕霧・・・。女房達にも「夕霧と結婚しなきゃ生活できませんよ」と迫られます。落葉の宮は泣く泣く、夕霧と一緒になるのです・・・。

 

末摘花は言わずもがなですね。父(常陸の宮)を亡くした後は悲惨な貧乏生活です・・・。

 

有力貴族の娘である雲居の雁は、夕霧と夫婦喧嘩した際、子供達を連れて実家に帰っています。「実家に帰らせていただきます!」と言えるだけ幸せなんだなぁと思いますよ。だって中の君や紫の上は夫の浮気に泣いても、帰る実家がないんですから・・・。

 

学校の歴史の教科書には「平安時代は母系社会で、子供は母方で育てられた。母の実家の力が強かった」なんて書いてありますが、いやいや、父の力も大きかったんだよと思います。

 

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