『十二単を着た悪魔』というタイトルを目にした時、まっさきに思ったのは「なんだこのふざけたタイトルは!」ということでした。
平安時代を舞台にした小説や漫画は積極的に手に取る私ですが、時代考証がしっかりされた素晴らしい作品もあれば、時代考証がめちゃくちゃな、酷い作品もあります。
なので、最初は『十二単を着た悪魔』に対しても「きっとくだらない小説なんだろう」と思ったんです。
「現代人がタイムスリップして『源氏物語』の中に迷いこむ話」という説明を読んで、ますますその思いは強くなりました。
しかし、作者名を目にした時、私の思い込みは覆りました。
「え? 作者は内館牧子さん? 超有名な作家さんじゃん!」
内館牧子さんの小説は読んだことはないけれど、昔、内館牧子さんが脚本を書かれたドラマ(「週末婚」と「私の青空」)を観たことがあります。
「内館牧子さんの小説なら読んでみようかな・・・」と思った私は、すぐに『十二単を着た悪魔 源氏物語異聞』を注文。
読んだ感想は・・・お見それしました。素晴らしい超大作でした。さすが、四年の歳月をかけて書かれただけあります。
幻冬舎文庫の裏表紙に書いてあるあらすじを引用しますね。
59もの会社から内定が出ぬまま大学を卒業した二流男の伊藤雷。それに比べ、弟は頭脳も容姿も超一流。ある日突然、『源氏物語』の世界にトリップしてしまった雷は、皇妃・弘徽殿女御と息子の一宮に出会う。一宮の弟こそが、全てが超一流の光源氏。雷は一宮に自分を重ね、光源氏を敵視する弘徽殿女御と手を組み暗躍を始めるが・・・。エンタメ超大作!!
十二単を着た悪魔=弘徽殿女御です。つまり、これは弘徽殿女御コードで読む『源氏物語』なのです。
弘徽殿女御と言えば「嫉妬深いオバサン」、「桐壺更衣をいじめた主犯格」、「光源氏を須磨へ追いやった女」と、すこぶるイメージが悪いです。右大臣(弘徽殿女御の父)と共に、『源氏物語』の敵役ですもんね。
でも『十二単を着た悪魔』を読んで「弘徽殿女御=現代的な価値観の女性」という説になるほどなと思ったし、「まぁ、確かに弘徽殿女御の言ってることのほうが正論だわなぁ。桐壺更衣を偏愛した桐壺帝のほうが、当時の天皇としては非常識だよなぁ」と思ったりもしました。
この小説の良いところは、伊藤雷がただの狂言回しではないところです。
『源氏物語』の世界にトリップした雷は平安時代の人間として生きていきます。雷の人生もしっかり動きがあり、読んでいて面白かったです(ネタバレ回避のために詳述は避けますね)。現代人である雷がどうやって平安時代に溶け込むのか――その方法に、「なるほどね」と唸りました。
雷の目を通して語られる『源氏物語』。
細部までしっかり調べた上で書かれていて素晴らしいなと思ったのですが、『源氏物語』と違う点をふたつ見つけました。
1.『十二単を着た悪魔』では「冷泉帝=第三皇子」と書いてあるが、実際は「第十皇子」。
2.葵の上と六条御息所が車争いをした日は「斎宮(後の秋好中宮)の御禊の日」であり、「六条の御息所はこの日の主役である斎宮の母」と『十二単を着た悪魔』には書かれているが、実際はこの日は「斎院(朱雀帝の同母妹)の御禊の日」。六条御息所は主役の母じゃない。主役の母だったら、もっと堂々と光源氏を見られたでしょう。
うっかり間違えてしまったのか、ドラマの都合上わざと改変したのかは分かりませんが。後者かもしれませんね。
朱雀帝と雷が夕焼けを見ながら語り合う場面は胸が締めつけられました。天才の弟を持つ兄は辛いですね・・・。でも朱雀帝も雷も、決して弟と仲が悪いわけではないのがいいですよね。っていうか、水(雷の弟)ってかっこいいよな・・・。
小説が終盤に近付くにつれ、ドキドキしました。「どこで終わるんだろう」と。「この小説はハッピーエンドになるんだろうか?」と。
そしてラスト。おおお、なるほどなるほど。
雷の成長物語になっているのがいいですね。小説を読んでこんなに感動したのは久しぶりでした。
で、あの、「超難関国立大学」って東北大学のことですか? 教授というのは仁平道明先生??
東北大学大学院って私が受験して落ちたところですwww
笑うところじゃないけど、笑ってしまいました。